最高裁大法廷・都庁管理職受験拒否合憲判決に対する声明

2005年1月30日
全国在日外国人教育研究協議会
会長 山本 重耳

 保健師として働く鄭香均さんが日本国籍でないことを理由に都庁管理職任用試験から排除された事の違法性を争った裁判は、2審の東京高裁で勝訴した。しかし、それを不服として都が上告したため7年間の歳月をかけて最高裁で争われた。裁判は昨年9月に突如、小法廷から大法廷に移管され12月に口頭弁論があり結審した。1月26日、最高裁大法廷は東京高裁の判決を破棄し鄭さんは全面敗訴した。

 最高裁大法廷は、在日外国人が公務員に任用されている現状を追認したものの、管理職任用については地方自治体で合理的体裁をつくれば違法とはならないとして、実質的に外国人の人権保障という重要な憲法判断を地方自治体に委ねた。日本も批准している国際人権規約や人種差別撤廃条約を一顧だにしないものだった。弁護団の金敬得さんも言っているように「最高裁判例史上に汚点を残す判決だ」と言わざるを得ない。

 全国在日外国人教育研究協議会は、全国の教職員に呼びかける。
鄭香均さんの怒りを共有しよう!!
 鄭香均さんは在日外国人として52年ぶりに大法廷で口頭弁論に臨み、自分の生い立ちや在日朝鮮人の歴史的な経緯、「当然の法理」の不当性などを陳述した後、次のように述べた。

(大法廷は)「当然の法理」を、国民主権を援用して日本社会の外国人施策に据え、排他的な一元社会へと走るのか、それとも人権の普遍性を認めるのか。<中略>参政権なき少数者にとって<中略>裁判所は民主主義の最後の砦なのです。(全文はこちら

 民主主義の砦ではないことを宣言するかのように最高裁は、受験拒否が差別だと11年間にわたり訴え続けてきた鄭香均さんの思いを打ち砕いた。鄭さんが願った在日外国人の人権保障に対する憲法判断は判決理由には一言もなかった。判決直後の記者会見で鄭さんは「涙もでない判決」と評した。人権保障に対する憲法判断がないばかりか、在日朝鮮人の歴史的経緯を一切顧みない判決に対して、鄭さんともども強い憤りを感じる。鄭さんは「外国人は日本に来ないほうがよい。(日本の封鎖性・人権意識の低さを知ってもらうために)この判決を訳して世界に伝えたい」と報告集会で語ったが、まさにそう言わざるを得ない判決であった。この判決の不当性につよい憤りをもって鄭香均さん怒りを共有しよう。
在日外国人生徒の未来をひらく進路保障を!!
 この判決で東京都は、在日外国人を排除してきた方針をさらに強めるかもしれない。しかし、橋本高知県知事が「東京都が設けた基準が非合理でないと言っているだけで、他の自治体が管理職に登用する門戸を否定するものではないと受け止める」(『朝日新聞』)と述べたように、判決は各自治体が独自に判断することを許容している。現に、兵庫県川西市では課長級の在日コリアン公務員が活躍している。鄭さんも職場ではグループの一員として仕事をしっかり果たしている。また、11府県やすべての政令市をはじめ全国主要都市の半数以上の自治体で(右ページの撤廃状況参照)、採用時の国籍条項は撤廃されている。鄭さんをはじめ多くの在日外国人が全国で公務員として活躍し、また公務員をめざす青年も多数出てきている。我々教職員は、在日外国人生徒の未来をひらく進路保障の取り組みをより一層深めていこう。

国籍条項の撤廃状況(2004年8月現在)

1 都道府県 東京高裁判決(97・11)
以前の撤廃
高知県(97・4) 神奈川県(97・4)
東京高裁判決以後の撤廃 沖縄県(98・4) 大阪府(98・6) 三重県(99・4) 
鳥取県(99・10) 滋賀県(99・10) 大分県(00・4)
愛知県(00・7) 奈良県(01・3) 岩手県(01・4)

1府10県

2 政令指定都市
(東京高裁判決以前は川崎市のみ)
札幌市・仙台市・さいたま市・千葉市・横浜市・川崎市・名古屋市
京都市・大阪市・神戸市・広島市・北九州市・福岡市

13市

3 県庁所在地
(政令指定都市を除く)
福井市・静岡市・津市・大津市・奈良市・和歌山市・鳥取市
岡山市・高松市・高知市・大分市

11市(政令市を含む 22市)

4 中核市
(県庁所在地を除く)
旭川市・横須賀市・相模原市・豊橋市・豊田市・岡崎市・堺市
高槻市・姫路市・倉敷市・福山市

11市(県庁所在地を含む 35市中18市)

5 主要都市 64市中35市 53.8パーセント

1〜4までの自治体に生活する永住者359,532人(永住者の50.4%  2002年12月)


参考資料

・判決全文はこちら
・鄭香均さんの最高裁判所意見陳述(2004.12.15)の全文はこちら